レーザー推進
レーザー推進ロケットの安定化機構とリアルタイム追尾技術
― 燃料不要ロケットの自由飛行実証と継続推力供給 ―
大気中の空気を燃料として用い、地上からのレーザー照射によって空気をプラズマ化して推進力を得る 「レーザー推進ロケット」は、従来の化学燃料ロケットが抱える高コストという課題を解決し得る 次世代宇宙輸送技術として注目されています。化学燃料ロケットでは大量の燃料を機体に積載する必要があるのに対し、 レーザー推進では無燃料且つ推進エネルギー源を外部に集約できるため、ロケットの軽量化と打ち上げコストの大幅な低減が期待されます。 一方で、飛行中にロケットをレーザー軸上に安定して保持することが難しく、実用化に向けた大きな技術的課題となってきました。
この課題に対し、機体がずれた際に自然に姿勢が修正される「複数放物面レーザー推進機」を独自に開発しました。 打ち上げ実験では、全長約15 mmの機体を高度110 mmまで自由飛行させることに成功し、受動的な姿勢安定性能を実証しました。 さらに、機体位置をリアルタイムで追尾し、レーザー照射位置を制御する「レーザートラッキングシステム」を開発し、 飛行中に推進エネルギーを継続的に供給できることを世界で初めて示しました。本研究は、将来の宇宙輸送のみならず、 航空機への応用も視野に入れた次世代推進技術の基盤となるものです。
研究の詳細はこちらの論文をご覧ください。
- Masayuki Takahashi, Yuya Hayadate, Koichi Mori, and Akihiro Hayakawa, “Free-flight and tracking experiments of a multi-parabola laser propulsion vehicle” , Scientific Reports, Vol. 15, 15513 (2025).
マイクロ波推進
トラクターミリ波ビームによる無燃料ロケット推進技術
― 前方照射ビームによる推力生成と地球外惑星打ち上げへの応用 ―
ミリ波ビームを用いて燃料を搭載せずに推進力を得る「マイクロ波ロケット」は、ビーム源がレーザーよりも安価な傾向があり、 打ち上げコストを大幅に削減できる次世代宇宙輸送技術として注目されています。 しかし従来方式では、ビーム照射後にプラズマが射線上に残留し、繰り返し照射時に推力が低下するという課題がありました。 この課題に対し、前方から照射されたミリ波ビームに引き寄せられるように推進力を得る新しい方式「トラクターミリ波ビーム推進 (Tractor Millimeter-wave Beam Propulsion: TMiP)」を提案しました。
TMiPでは、ロケット前方に設置したPTFE製レンズによってミリ波ビームを集光し、機体内部でプラズマを生成します。 生成された高温ガスは後方へ排気されるため、ビーム射線上にプラズマが滞留しにくく、繰り返し照射時においても推進性能の低下を 抑制できる構造となっています。推力測定実験では、28 GHzの高出力ミリ波ビーム照射により、 ロケットがビーム源方向へ引き寄せられる挙動が確認され、前方照射ビームによる推力生成の有効性が示されました。 本技術は、地球からの打ち上げにとどまらず、軌道上衛星からの遠隔ビーム照射により、 火星など地球外惑星からの離脱を可能とする推進方式として、将来の宇宙探査・往還型ミッションへの展開が期待されます。
研究の詳細はこちらの論文をご覧ください。
- Masayuki Takahashi*, Toshiki Yamada, Ryutaro Minami, Tsuyoshi Kariya, and Kohei Shimamura, “Experimental demonstration of tractor millimeter wave beam propulsion” , Scientific Report, Vol. 15, 17544 (2025).
マイクロ波駆動管内加速器(MITA)によるロケット加速技術
― ねじれた光ビーム(光渦)を用いた無燃料推進の実証 ―
ミリ波ビームを用いて燃料を搭載せずにロケットを加速する「マイクロ波ロケット」は、 将来の低コスト宇宙輸送を実現する技術として注目されています。しかし、姿勢制御の困難さ、ビームの発散、 繰り返し照射による推力低下、高高度での大気希薄化など、実用化に向けて多くの課題が存在していました。 これらの課題を一気に解決する新たな方式として、ロケットをチューブ内で加速する「マイクロ波駆動管内加速器 (Microwave-driven In-tube Accelerator: MITA)」を提案しました。
MITAでは、チューブを導波管として利用することでビームの発散を抑え、ロケットの運動を軸方向に 制限することで姿勢制御を不要としています。また、チューブ内に気体を封入することで、 高高度の低圧環境でも安定したプラズマ生成が可能となります。 本研究では、螺旋位相板を用いてミリ波ビームをドーナツ状の「光渦ビーム」に変換し、 推進機内部で効率的にプラズマを生成することに世界で初めて成功しました。 これにより、チューブ内でロケットがビーム源方向に加速されることを実証し、 MITAによる推力生成原理を明確に示しました。本成果は、地球や月でのロケット打ち上げに加え、 宇宙エレベーター昇降機や地上輸送技術への応用も視野に入れた、新しい宇宙推進技術の基盤となるものです。
研究の詳細はこちらの論文をご覧ください。
- Masayuki Takahashi, Toshiki Yamada, Ryutaro Minami, Tsuyoshi Kariya, and Kohei Shimamura, “Generation of a 28 GHz Annular Power Distribution with High Power Gyrotron and Its Application to Microwave Driven in Tube Accelerator” , Scientific Reports, Vol. 15, 24274 (2025).
大気吸込式電気推進
地球超低軌道(VLEO)を切り拓く大気吸込式電気推進
― “空気抵抗” を “推進力” へ転換する革新的エアブリージング電気推進技術 ―
本研究では高度100–300kmの地球超低軌道(VLEO)における衛星の長期運用を可能にする大気吸込式電気推進(ABEP) の実用化を目指しています。VLEOは通信速度の大幅改善や高解像度観測、デブリ衝突リスクの低減といった利点を持つ一方、 大気抵抗が極めて大きく、従来の燃料搭載型推進では継続的な軌道維持が困難でした。
そこで着目したのが、この“最大の障害”であった大気を “最大の資源” へと転換する逆転の発想です。 周囲の希薄大気を本研究グループ独自の世界最高性能インテークで圧縮し、そのまま推進剤として利用することで、 燃料を搭載せずに軌道維持を可能にします。さらに、VLEO環境を模擬した希薄高速風洞を独自に開発し、 実用レベルの電力投入においてプラズマ着火および加速に成功しました。 低ドラッグ衛星設計と組み合わせることで、小型・低コストかつ持続可能な次世代宇宙インフラの実現を目指します。
燃料搭載型電気推進
ホールスラスタプラズマの数値シミュレーション
― “異常輸送” を解明して,ホールスラスタの設計基盤を構築する ―
近年、宇宙輸送需要の拡大に伴い、ホールスラスタをはじめとする電気推進機の高性能化(高出力化、燃費向上など)が 急速に進んでいます。 特に高出力化においては、磁場に直交する方向の電子閉じ込めが想定よりもうまくいかない、"電子異常輸送” という現象が発生することが知られています。 電子異常輸送は放電維持や推進効率を左右するためスラスタ設計において重要視されていますが、 実のところその物理機構は未解明な点が多いのが現状です。
本研究では、E×B電子ドリフト不安定(EDI)に起因する異常輸送現象の解明を目的とし、 2次元3速度成分のフル Particle-in-cell (PIC) コードを開発してホールスラスタプラズマを再現しました。 Lafler らの理論に基づき平均場と揺動成分を分離して解析を行ったところ、 周方向に伝播する静電波と電子密度波の相関が輸送増大に本質的役割を果たすことが示されました。 さらにフーリエ解析により波動の分散特性を定量化し、拡散項を含めた移動度評価が不可欠であることを明らかにしました。 加えて、テスト粒子計算およびPIC-MCC解析を行ったところ、ラーマー半径の小さい電子が選択的に 加熱される過程が異常輸送と関連する可能性が示されました。 これらの成果は、ホールスラスタ内部の非平衡輸送を統計的・スペクトル的に記述する新たな理論構築に向けた 基盤を与えるもので、将来的にはホールスラスタ設計に活かせるようなモデル化を目指しています。
ヘリコンプラズマ推進機の数値シミュレーション
― 電磁場のコントロールにより実現する,電極・中和器レスなプラズマ推進機 ―
近年、小型衛星コンステレーションや月・火星探査の進展に伴い、宇宙機の高性能化と超寿命化が強く求められています. その中核を担う電気推進機は、高比推力により軌道遷移を可能にする一方、低推力ゆえの運用期間長期化や、 加速電極の損耗、中和器の電力制約といった課題を抱えているのが現状です。 これらを克服する手段として、電極と高密度プラズマの直接接触を避ける電極レス、且つ中和器レスの推進、 ヘリコンプラズマスラスタ(HPT)が注目されています。 HPT の中でも、軸方向磁場を時間変動させる Time-variating magnetic nozzle (TVMN)スラスタでは、 誘導電場とローレンツ力を利用した追加推力生成が期待されていますが、詳細なプラズマ輸送および Cross-field 形成機構の理解が不十分でした。
そこで本研究では、2次元3速度成分PIC-MCC法と簡易電磁モジュールを組み合わせ、 TVMN内部のプラズマ輸送現象を解析しました。 その結果、電子の強いE×Bドリフトが壁面損失と Cross-field 形成を支配することが解明されました。 さらに、閉磁力線を形成する孤立コイルを導入した Isolated magnetic source (IMAS) スラスタを提案し、 壁面損失低減と推力約1.5倍向上が見込めることを数値的に示しました。 また、電流中性条件を満たすための Sampling electron speed distribution and selective releasing (SSR) 境界条件を開発し、より実現象に近い数値モデルを提案しています。